英語圏で生活すれば英語は自動的に上達する?

リンガ・エスプレッソのヤスロウです。

英語圏で生活すれば英語が自動的に上達すると思っている人は多いようです。これが正しいかどうかはその生活のしかたに依存します。しかし間違いなく言えるのは、よく思われているような、どのような生活のしかたでも英語圏で生活さえしていれば上達する、というようなことは起こりえない、ということです。今回はなぜなかなかそうはいかないかについて説明したいと思います。


英語圏で生活すると、どうしてもある程度の英語を使わなくてはならなくなります。例えば、買い物。あるいは、レストランで食事を注文すること。したがって、これらのごくごく基本的表現はサバイバルのために覚えざるをえません。よって使えるようになります。しかし、所詮いくつかの基本表現を覚えるだけで達成できることですから、そもそもさしたる進歩ではありません。英語圏で生活しないと学べないことでもありません。

英語圏で生活すれば英語を使わざるをえなくなって上達する、という人はいます。しかし、便利になった現代生活では実は人と接触せずともさまざまな用が済ませられるようになっています。本当に英語を使わなくてはならないのは上に挙げたようなごくごく少ない、かつさしてコミュニケーション能力を要求されないような状況のみです。そのような理屈で本当に英語力が伸びることがあるとすれば、例えば日本人が他にいないような地域にいきなり放り込まれ、普通の(つまり外国人向けではない)現地の学校に通い、接触があるのは、ホストファミリーか現地人の学友や先生のみ、という状況 — あるいは社会人ならば職場に関して同様な状況 — 下のみでしょう。

私の知り合いに、家庭のひどく特殊な事情で、結果的にそうやって高校からアメリカ人の家庭で生活してきた日本人男性がいます。彼は確かにそうやって英語を習得していました。

ちなみに余談ですが、彼を観察して面白いと思ったのは、遠くで彼が英語を喋っているのを聞くと、ネィティブ・スピーカが喋ってるかのように聞こえるのです。つまり、彼は英語のリズムをしっかり習得しているのです。ところが、近くで聞くと、発音だけを取っても細かいところで問題があることがわかるのです。人によってはこれを、外国語として英語を学ぶ人は、個々の音素よりも全体のリズムに注力すべきだ、という主張の証拠だと解釈するでしょう。


さて、英語圏に住む人にとって、科学技術の進展、特にインターネットの普及は、かえって英語習得を難しくしているとも言えます。以前は外国に住めば、テレビ・ラジオは現地の番組を見聞きするしかなく、新聞や書籍も現地のものしか手に入らなかったわけです。私は'88年夏から'89年春まで、ワーキング・ホリデーでカナダのバンクーバに住みましたが、これの最初の数ヶ月は実際ほぼ日本語から完全に隔離された生活を送りました。日本語を目にするのは、友人からの手紙を読むときぐらいだったのです。(この頃の思い出についてはいつかまた書く機会もあるでしょう。)

しかし今、インターネットに接続されたパソコンがあれば、日本の情報は即座に知ることができます。それだけではなく、日本のラジオをインターネット・ラジオで聞くこともできれば、日本のTV番組のビデオをYouTubeで見ることも容易です(著作権の問題はさておき)。また、電子メールが使えるおかげで、以前のように電話で英語を話してコミュニケーションしなくてはならない必要性も確実に減りました。確実に便利になったのですが、英語習得の面からは易きに流れやすくなったということでもあります。英語圏にいて現地のニュース番組をたやすく見ることができる状況にありながら、日本の相当物ばかり見聞きしている人も多いと想像されます。

ちなみにこれは裏返すと、日本で英語を習得しようとしている人には、非常に便利になった、ということでもあります。


私は、純粋に英語習得の観点からは、語学留学の意義に極めて懐疑的です。(語学留学の目的には、異文化体験、外国人とのアバンチュール、日本での生活からの逃避、など、英語習得以外にいろいろありえますが、ここでの議論はそれを一切無視したものです。)私は、語学留学で学べるようなことは、日本でもさしたる困難もなく容易に十分学べる上、そちらの方がむしろ効率的だと考えています。

もちろんこれはそれぞれの人の意識の高さ・低さによるのですが、私が観察する限り、日本人のESL/EFLの学生は、授業後も日本人同士でつるんでばかりです。ESL/EFLの授業は、カレッジ・レベルのクラスに比べてずっと早く終わるので、いつも暇そうな印象があります。こういった人たちは独特の雰囲気を醸し出しており、キャンパスでもそれ以外ででも、一瞥するだけですぐそれとわかります。

また、彼らが英語を使う相手は、現地の日本人の友人を除くと、彼ら同様ESL/EFLに参加している他の国出身の学生が主です。純粋に英語を習得する、という点からは、そういった人たちと話すことがどの程度有意義なのかは疑わしいと思っています。

それでも、英語を使う機会であるだけ有意義だ、という意見はあるでしょう。それは必ずしも間違いとは言えませんが、もしきちんとした英語が返ってくることが必要条件でなければ、そもそも一人でも十分できること、あるいは、日本で他の日本人とも達成できること、とも言えるのではないでしょうか。


最後に、語学留学ではなく、ちゃんとした留学で、カレッジ・レベル以上のクラスを取る場合。ちょっと意外かもしれませんが、このような経験をしても、必ずしも流暢さが伸びるとは限らないのです。

アメリカの場合、留学生には学期あたりに履修すべき単位数の下限が課せられます。日本の大学と異なり、ほんとんどのクラスできっちり勉強することを要求しますから、留学生は否応なくかなり忙しい生活を送ることになります。もちろんこの過程で、通常膨大な読書をさせられるので、語彙も増えれば、読書スピードも上がるかもしれません。また、レポートを書くために作文スピードも上がるかもしれません。したがって、全般的な英語能力が向上するのは間違いないのですが、学科や取るクラスに特にディスカッションの要素がなければ、話す機会はあまりなく、流暢さはなかなか上がらないのです。

それだけではなく、学業に追われて、アメリカに住んでいてもその文化を経験する暇もなかなかないのが普通でしょう。慢性的な睡眠不足で、TV番組ですらなかなか見る暇がない人は珍しくないと思います。

私自身、カレッジを卒業した後、TVを見たり、あるいはアメリカ人の友人とつるむ暇がやっとできて、はじめて文化に対する理解が急激に伸び、また、流暢さが向上しました。

もちろん、個人的なレベルでそういう機会を積極的に作れば話は別です。例えば、ネイティブ・スピーカの人とアパートをシェアする、ネイティブ・スピーカの人の恋人を作る、あるいは、ネイティブ・スピーカの人が多い趣味の集まりに参加する、など。

上で、「作文スピードがあがるかも」と書きましたが、本質的な作文能力が必ずしも向上するわけではありません。大学から留学した人ならカレッジ・レベルの英作文のクラスを履修することが通常求められますから、そこで多少は勉強するものの、それ以降は作文についてきちんとした指導を受ける機会はありません。大学院留学する人には、専門分野によってはそういう機会はほぼありません。私はかつて、当時アメリカの比較的知られた大学の理系博士課程に在籍していた台湾出身の大学院生と共同研究をした経験がありますが、彼が論文のために書いた英文を校正するのは非常に骨が折れました。


今回の記事に関連して、「母国語を子供が習得するように英語を学ぶ?」という記事もかつて書きました。よろしければそれもご覧下さい。

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この記事へのコメント

こういち
2008年01月25日 06:40
僕もアメリカの大学で学部→大学院とこれまで6年間留学生活をしていますが、ヤスロウさんの書かれたとおりだと思います。
学校でひたすら忙しく、テレビを見たり、友達と飲んだりする機会はあまりありません。ましてや国内の旅行など一度もありません。そのくせ家で晩ご飯を食べるときにはしょっちゅうインターネットで日本のテレビ番組を見る...。
おかげでいまだに英語の電話が苦手ですし、日常会話も「外国人として」手加減/配慮された会話レベルです。だめだなあ。
2008年01月25日 14:57
やはり、こういちさんなら深くうなずいていただけるものと思っていました。アメリカの大学生・大学院生はホント忙しいですもんね。

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