聞き流すだけで聴解力が伸びるか?

リンガ・エスプレッソのヤスロウです。

今回は「発音上達法」で予告したように、最近日本で流行っているという(あくまで伝聞なんですが)、「聞き流すだけ」で英語が習得できるというふれこみの教材について私の個人的意見を述べたいと思います。


そういった教材は複数あるようですが、やはり一番メジャーなのはエスプリラインという会社が販売しているもののようです。「スピードラーニング」という名前がつけられています。

ちなみに、この会社は、以前はマジック・リスニングなる英語習得を前提にした聴覚訓練教材をメインに販売していました。今は「スピードラーニングバージョン」ということになっています。実質は何ら関係ないと思いますが。

のっけからいきなり余談になりますが、私は実はこのマジック・リスニングの方は、効果が期待できる可能性があると思っています。

マジック・リスニングは、このような理論を元にしています:日本語と英語では、発話時に出現する周波数帯に違いがある(事実)。日本人が英語を聞き取れないのは、英語独自の周波数帯に耳が慣れてないからである(妥当な推測)。電子的に特殊に加工した音を聞かせることで、耳を「リセット」し、英語独自の周波数帯に耳を慣れさせることで、英語の聴解力が上がる可能性がある(妥当な推測)。ここで、「妥当」と書いたのは、「少なくとも論理的に明らかには破綻していない」という意味です。弱いようにお感じなるかと思いますが、後の話で分かるように、論理的に明らかに破綻していない、というのはこの手の商品の中ではましな方なのです。

これに希望があると私が思うのは、トマティス・メソッドと呼ばれる、フランス人医師Alfred A. Tomatisが「発明」した、自閉症、分裂症をはじめ各種の精神的問題の治療法と基本的に同じだからです。日本には、NPO法人 トマティス聴覚・心理・発声ケア協会が存在し、実際にトマティス・メソッドは行われています。ただし、Wikipediaはトマティス・メソッドが有効であることを決定的に証明する科学的調査は存在しないことを述べています。

エスプリラインはマジック・リスニングの効果を調査した結果をウェブサイトに載せています。科学的信憑性の方はわかりませんが、一応国際会議での発表論文も1本含まれており、この手の教材にしてはよくやっている方だといえます。


さて、肝心のエスプリライン社の教材「スピードラーニング」の話に戻ります。

「スピードラーニング」という用語は、この教材の現われるはるか昔から使われています。残念ながらWikipediaを見ても誰が命名して、具体的にどういうことを指すのかははっきりとはわかりません。私は確か高校生の頃か大学に入りたての頃に興味を持って、新書でその内容を多少かじったことがあります。詳細は覚えていませんが、端的には、深くリラックスした状態では、学習効率がぐんと上がる可能性がある、ということだったと思います。

私はこれは説得力があると思っています。ただし、これがうまく行くためのキモは、何と言っても、その深くリラックスした状態に入ることです。これが誰でもすぐできるような代物ではなく、きちんとした訓練が必要なことは想像に難くないでしょう。しかし、エスプリライン社の教材「スピードラーニング」はこの点に関して、BGMに「リラックス効果をもたらすクラシック音楽を採用」しているだけです。これでは、何もしないよりまし、なのは認めるにしても、それで十分な効果があるかは疑わざるを得ません。

もちろん、私の理解している「スピードラーニング」とエスプリライン社のそれが内容的に同じだとわかっているわけではないのですが、私はまずここでひっかかります。


しかし私がもっとも引っかかるのは、「聞き流しているだけで聴解力が伸びる」という主張です。

まず、英語聴解のための知識が既に十分ある場合は、実戦訓練を繰り返すことでそのスキルが定着する可能性は確かにあります。しかし、この教材はそういう知識を前提にはしていません。

そういった知識がゼロ、あるいは不十分な状態だと、いくら英語を聞こうと、あくまで日本語のフレームワークの範囲で聞こえるだけです。そのフレームワークで、似通って聞こえる音が区別されることはありません。聞きっぱなしだと、そういった音が区別されて別のものとして認識される契機が起こらないので、新たな聴解のスキルが形成されようがないのです。上に述べたように、日本語と英語では、発話中に現われる音に違いがありますから、英語を学ぶ上で、英語の音に触れる必要があるのは当然です。しかし、それだけでは不十分だということです。

聴き取れない音は発声できない」ということは、多くの外国語学習者が経験的に知っています。前述のトマティスの三原理の一つということにもなっています。これを認めるなら、エスプリライン社の教材「スピードラーニング」のみでは、聴解力が伸びようはずもなければ、結果として正しい発音ができようはずもない、と言えます。


この記事を書くにあたって、ウェブ検索をしましたが、やはり「聞き流すだけで本当に上達するのか」という疑問は皆さんお持ちのようで、それはあちこちで提示されていますね。(よほど広く広告されているのでしょう。)

All Aboutのガイドははっきり「聞き流すだけではダメ」と否定しています。スピードラーニングを買ってはいけない本当の理由などというブログまであります。「聞き流すだけで英語はマスター?」も参考になるかもしれません(「この『聞き流すだけで英語を吸収する方法』は言語学ではAcquisiton『習得』と言います」という謎の一文はご愛嬌と思って見逃しましょう)。

その一方、好意的に紹介しているブログが多いのも事実です。なぜでしょう?—それはエスプリラインがアフィリエート広告を強力に推しているからです。つまり、それらは小遣い稼ぎを目的に、あることないことを平気で載せているようなブログだということです。それらブログがFC2ブログ上にあることが多いのにお気づきですか?これはFC2ブログがアフィリエート活動を許しており、アフィリエータのいわば御用達ブログサービスだからです。


断っておきますが、私がこの記事で否定しているのは、単に聞き流すだけで聴解力が伸びる、という主張だけです。その他の面で、このエスプリライン社の教材「スピードラーニング」が有効かどうかに関しては一切判断を示していません。

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