流行のシャドーイングの弊害
リンガ・エスプレッソのヤスロウです。
前回の記事にも少し書きましたが、ここシアトルは相変わらず寒波で大変なことになっています。寒波そのものはさほどひどくないのですが、シアトルの住民がそういった天候に慣れてないことが、問題をよりおおごとにしているように私には思えます。
私はかつてピッツバーグに住んでいましたが、そこでは冬の間中、雪は頻繁に、しかも大量に降っていました。しかし、その分彼らはその対処にも慣れており、そのため交通機関が麻痺するようなことはなかったと思います。しかしここシアトルでは、道路の除雪・解凍すら十分に行われておらず、一部路面は非常に危険な状態になっています。車はノロノロ運転せざるをえません。
さて、どうも最近の英語学習の指南書で、シャドーイングをまるで魔法の杖かのように勧めるのが流行っているようです。リンガ・エスプレッソの生徒さんでも、特にTOEFL受験を考えておられる方は、シャドーイングに精を出されている方が多いようです。しかし、その一方、そういった人たちに共通する問題があります。それは聴解力(リスニング)が弱い、ということです。より正確には、同じ聴解力でも、音をプロセスする次元ではなく、内容を汲み取る次元で問題があります。私はそれがシャドーイングに傾倒しすぎだからではないか、と疑っています。この記事ではそれのお話をしたいと思います。
シャドーイングと一口に言っても、実際のやり方はいろいろあるでしょう。もっとも簡単な形では、お手本の発言のすぐ後について、その発言を真似して自分も声に出して言うだけです。それだけだと特にそのトランスクリプトは必要ありません。しかし、それだと正しく聴き取れているかわからないので、トランスクリプトが存在するお手本を用意するのが普通でしょう。
その上で、さまざまな角度から題材を何度も「しゃぶり」、最終的には、お手本と同様の自然さで、あたかも自分自身の発言かのように発音できるようにする、というのが一般的なやり方のようです。その過程で、聴解力については、発音のされかたに対する見識を深めることができ、結果として聴解力も伸びる、というのがシャドーイング信奉者の主張です。
それは決して間違っていませんし、トレーニングの一方法として有効であることは疑う余地はありません…一点を除いて。
それは、当たり前ですが、正確に真似できるためには正確に音が聞けている必要があるということです。したがって、シャドーイングの練習をすればするほど、事細かに全ての音を聞き取ろうとする態度を強化してしまいます。
これのどこが問題なのでしょう?問題は、現実の聞き取りの場においては、全て聞き取れることは、よほど特殊な状況でもない限りありえない、ということです。したがって、全ての音を聞き取ろうとすると、頻繁に失敗する結果になります。ネイティブ・スピーカと実際に会話するときでも、TOEFLのような試験で聴き取りをするときでも、これは例外的状況ではなく、むしろ常態である、ということをしっかり認識する必要があります。
実はこれは我々の母国語の日本語の聴き取りに関しても、意外に普通に起こっています。それでも多くの場合問題にならないのは、聴き取れないところは聴き取れた他の部分の情報から予測して補っているからです。
英語の聴き取りに関しても同じことができなければなりません。聴こえない部分があるのは当然だ、という前提に立って、聴こえない部分があってもいちいちオタオタせず、次のキーワードを捕まえることに専心しなくてはなりません。「聴解力強化法」でも触れましたが、こういうスタイルのリスニング方法を、「アクティブ・リスニング」と言います。
シャドーイングの練習ばかりしていると、全て聴き取ろうとばかりしてしまいます。しかし、仮に聴こえない部分があっても、別にそのこと自身は致命傷とは限りません。他の聴き取れる部分で十分補えるだけの内容なのかもしれません。あるいは、補えなくても、そもそも二次的内容で、聞き取れなかったとしても本題を理解するには問題なかったかもしれません。しかし、そこで聴き取れなかったからと慌ててしまうと、次に出てくる重要なキーワードを聞き落としてしまい、結果として全体的内容が理解できなくなってしまうかもしれません。こうしてアクティブ・リスニングができず、結果として全体の理解度が落ちるのではないかと私は想像しています。
もしこういった問題を抱えているのだとすると、それはどうやって克服できるのでしょう?上の論で行くと、シャドーイングで培ってしまった、いわば「完全聴き取り主義」のメンタリティーを破棄する必要があるわけですが、それはどうすればよいのでしょうか?
一つの方法は、例えばニュース番組やトーク番組を、後で誰かにその内容を説明するつもりで聞くことではないかと思います。ただし、英語で説明しようとすると、どうしても表面的な英語に拘ってしまいますので、最初は欲張ることなく、主に日本語で、ただしわざわざ日本語にするのが煩わしい場合は英語を使うようにして行きましょう。「人に説明しなくてはならない」と思うと、表層的英語に拘らず、自然と内容に注意が行くのではないかと思います。
ちなみに私が、英語圏に住んでいれば勝手に英語が上達するという考えを毛嫌いしていることは、「英語はやっぱり英語圏で勉強しないと!?」や「英語圏で生活すれば英語は自動的に上達する?」と言った記事を読んでいただければ明らかだと思います。しかし、アメリカでカレッジに通った結果、自分の英語力に明らかに貢献したと思うことが一つあります。それが、アクティブ・リスニングのスキルです。講義のノート取りが正にこれの訓練になったと思っています。
私はアート専攻だったので、実技科目が大半で、講義形式だった科目は、西洋芸術史だけです。ただし、I, II, III, と3学期に別れてました。講義内容の性質上、スライドを多用するのですが、試験ではこのスライドを見せて誰の作品か同定させる問題もあったため、文字で書き取ると同時に、スライドで見せられている芸術作品も瞬時にスケッチしなくてはならなかったのです。アクティブ・リスニングの能力のみならず、スケッチのスピードも上がったと思います。
続編「シャドーイングによる悪癖から脱するためのアクティブ・リスニング」ではこの記事で述べたようなシャドーイングによる弊害をどう克服すればよいかについて述べます。さらにその続編、「アクティブ・リスニングを体感」では、それを具体的に体験して頂きます。
ご興味があれば、アメリカ人のアーティスト観についての記事もご覧下さい。
この記事へのコメント
番組内では、リダクション(弱化)の練習コーナーもあります。
特に機能語の前置詞などは弱められ、その発音練習をします。
たとえば,12/22のニュースリスニングで、
In 2005, in his 11th year in the Major Leagues,Nomo earned his 200th career victory.
2番目と3番目のin は弱化する、とあります。
文章だけでうまく伝わってるかわかりませんが、
とにかく、それすべてを聞こうとしたら、それだけに集中しないとそりゃ難しいでしょうと感じるわけです。
だから、私はiKnow!のディクテーションではいつも
前置詞が聞き取れておらず、つまづいてしまいます。
もっと知識があれば推測できるのでしょうが・・・
そういった訓練はもちろん重要ですし、それがある程度できるようになるまではその点にだけ注意して聴き取り訓練するのはもちろん有効です。
その一方、前置詞のような機能語は意味を本質的に左右することはまずない、ということを理解して、それに拘らない訓練も必要になるということです。
これら対照的な訓練を同時に行うのは混乱の元でしょうから、例えば、聴き取りの一回目は意味を取ることだけに集中し、それ以降の回では全てを聴き取りするようにする、などの工夫が有効かもしれませんね。
コメントどうもありがとうございます。シャドーイングは元々通訳志望者の方の訓練方法だったのが一般に広がったものですよね。そうやって通訳の訓練をされた方にも同意していただけて、ますます持論に自信が持てました。